GoogleのオープンなLLM「Gemma」を使ってみた 概要から使い方まで解説
2024年2月21日、Googleはオープンな大規模言語モデル(LLM)「Gemma」をリリースしました。Gemmaは、AI開発の責任ある進化のために制作され、Googleが以前に発表したGeminiモデルと同じ研究と技術を基にしています。
このモデルは、開発者と研究者がAIをより責任を持って構築するためのオープンモデルとして位置づけられています。
この記事では、Gemmaについて詳しく解説したあと、実際にGemmaを使ってみます。
Gemmaとは?
Gemmaは、軽量かつ最先端のオープンモデルのファミリーで、Google DeepMindをはじめとするGoogleのさまざまなチームによって開発されました。これはGeminiからインスピレーションを受けているとのことです。
Geminiについては、こちらの記事で解説しています。
「gemma」という名前はラテン語で「宝石」を意味し、その価値と重要性を象徴しています。GoogleはGemmaのリリースに伴い、開発者のイノベーションを支援し、協力を促進し、Gemmaモデルの責任ある使用をガイドするためのツール「Responsible Generative AI Toolkit」も同時にリリースしています。
Google DeepMindはTwitter(X)への投稿で、「他のモデルと比較して、そのサイズでクラス最高のパフォーマンスを実現し、開発者のラップトップまたはコンピューターで実行できます。また、安全で責任ある出力に関する当社の基準を満たしながら、主要なベンチマークではるかに大きなモデルを上回っています」と説明しています。
Googleが公表したベンチマーク結果では、Gemma 7Bはすべての指標でLlama-2 13Bを上回っています。Gemmaの70億パラメーターに対して、Llama-2は130億パラメーターであることから、Gemmaがコンパクトで高性能なモデルであることが分かります。
主要な特徴と利点
Gemmaは、開発者と研究者がAIをより責任を持って構築できるようにするために設計されています。その主要な特徴と利点には、次のようなものがあります。
- モデルのサイズ:GemmaはGemma 2BとGemma 7Bの2つのモデルサイズでリリースされ、それぞれ事前訓練済みモデルとinstructionモデルを提供
- 責任ある生成AIツールキット:安全なAIアプリケーションの作成に必要なガイダンスと重要なツール「Responsible Generative AI Toolkit」を提供
- 多様なフレームワークとツールのサポート:JAX、PyTorch、TensorFlowなどを通じたネイティブKeras 3.0など、すべての主要フレームワークでの推論と教師ありファインチューニング(SFT:Supervised Fine-Tuning)のためのツールチェーンのサポート
- ハードウェアの最適化:NVIDIA GPUやGoogle Cloud TPUなど、業界をリードする複数のAIハードウェアプラットフォームのための最適化
- オープンなライセンス:規模に関係なく、すべての組織に対して責任のある商業利用と配布を許可するライセンス
他のオープンなLLMと比較すると、「Responsible Generative AI Toolkit」の提供やオープンなライセンスなどが特徴的です。
とくに、オープンなモデルとして有名なMetaのLlama 2のライセンスでは、月間アクティブユーザー数(MAU)が7億人以上の場合はMetaに申請する必要があるとされています。一方で、Gemmaは規模に関係なく、すべての組織に対して責任のある商業利用と配布を許可しています。
また、NVIDIAとの提携により、間もなくChat with RTXでも利用可能になるとのことです。これにより、Gemmaと検索拡張生成(RAG)を組み合わせて、ローカルのファイルを検索したり、ローカルのファイルの情報をもとにして質問に答えたりできるようになります。
Chat with RTXの概要と使い方については、こちらの記事で解説しています。
責任あるデザイン
Gemmaは、GoogleのAI原則を最前線に置いて設計されています。データセットから特定の個人情報やその他のセンシティブなデータを自動的にフィルタリングする技術や、Gemmaの事前訓練モデルを安全かつ信頼できるものにするための広範なファインチューニングと人間のフィードバックによる強化学習(RLHF:Reinforcement Learning from Human Feedback)などを利用しています。
Gemmaモデルのリスクプロファイルを理解し削減するため、手動のレッドチーム化、自動的な敵対的テスト、危険な活動に対するモデル能力などを評価したとのことです。
なぜGemmaは重要なのか?
Gemmaが他のオープンモデルと異なる点は、その設計における責任あるAIの重視にあります。これにより、開発者や研究者は、安全で倫理的なAIアプリケーションの作成に必要なツールとサポートを手に入れられます。
また、Gemmaは単にオープンなモデルであるだけでなく、あらゆる規模の組織が責任を持って商用利用と配布ができるようにしています。これは、小規模なスタートアップから大企業まで、幅広い組織が最先端のAI技術を活用できる機会を提供します。(とはいっても、Llama 2のライセンスで制限の対象になるのはビッグテックだけなので実質的にLlamaとあまり変わらない感じもします)
実際にGemmaを使ってみる
Gemmaは、次のプラットフォームで利用できます。また、MaxTextやNVIDIA NeMo、TensorRT-LLMなどと組み合わせた利用もできます。
今回はHugging FaceからGemma 7Bのinstructモデルをダウンロードし、ローカルで実行してみます。
Hugging Faceからモデルをダウンロードするにはログインし、ライセンスの同意ボタンをクリックする必要があります。メールアドレスとユーザー名がGoogleと共有されるとのことです。
同意ボタンをクリックすると、ライセンスが表示されます。氏名を入力して同意すると、モデルを使えるようになります。
ライセンスに同意したら、まずは必要なライブラリーをインストールします。パソコンにPythonとpipがインストールされていることを前提にしています。
次に、huggingface-cli login
でHugging Faceにログインします。アクセストークンの入力を求められるので、Hugging Faceの設定ページから取得して入力します。
右クリックでペーストできますが、入力した内容は表示されません。そのため、右クリックでトークンを貼り付けたら他のキーを押さずにEnterキーを押してください。また、「Add token as git credential? (Y/n)」と聞かれますが、今回はn
を入力しました。
ここまでできたら、次のコードを実行してGemmaを使ってみます。今回はfloat16の量子化モデルをGPUで実行してみます。ただし、ここでは公式のサンプルコードにimport torch
と, max_new_tokens=128
を追加しています。
他のサンプルコードはHugging Faceのページから確認できます。
Gemmaを使って詩を生成できました。詩の内容は、機械学習に関するもので、データの重要性や機械学習の責任についても言及されています。
次はinput_text
を変更して、チャット用のフォーマットを使いながら日本語で試してみます。
日本語での質問にも答えられました。富士山の標高も正しく答えられています。
日本語でも詩を生成してみます。
少し日本語が怪しいですが、一応詩を生成できました。
まとめ
Googleの「Gemma」は、開発者と研究者がAIをより責任を持って構築できるよう支援するための工夫が施されています。その設計は安全で倫理的なAIアプリケーションの作成を重視しています。
また、Gemmaはオープンなモデルでありながら、責任ある商用利用と配布が可能なライセンスを持っています。これにより、幅広い組織が最先端のAI技術を活用できる機会を提供しています。
Gemmaは、Google Colab、Kaggle、Hugging Faceなどのプラットフォームで利用できます。また、MaxText、NVIDIA NeMo、TensorRT-LLMなどと組み合わせた利用も可能です。
今回はHugging FaceからGemma 7Bのinstructモデルをダウンロードし、ローカルで実行してみました。Gemmaのリリースにより、AI開発の責任ある進化が促進されることが期待されます。