X(Twitter)の利用規約が改訂へ 投稿がAIの学習に利用されるって本当?

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2024年10月17日ごろからX(旧Twitter)上では、同サービスの利用規約とプライバシーポリシーが変更され、投稿内容がAIの学習に利用されるようになるとの情報が広まっている。これらの情報は、完全に間違っているとまではいえないものの、いくつかの誤解が含まれている。本稿では、Xの過去の利用規約やプライバシーポリシーを注意深く読み解きながら、その真相を探る。

利用規約とプライバシーポリシーが変更へ

10月17日までに、Xが同社の利用規約とプライバシーポリシーを変更する予定であることが分かった。同社によると、これらの新しい利用規約とプライバシーポリシーは、11月15日から適用されるという。

この変更を受け、X上では「投稿内容がAIの学習に利用されるようになる」との情報が広まっている。この主張自体は誤りではないが、いくつかの重大な誤解が含まれている。

誤解について議論する前に、まずはXの利用規約とプライバシーポリシーがどのように変更されたかを確認しておこう。本稿ではすべての変更には触れず、AIの学習に関係のある部分に焦点を当てて紹介する。変更された利用規約では、次のような記述がある。少し長いが、以下に引用する。

サービス上でまたはサービスを通じてコンテンツを送信、ポスト、または表示することにより、お客様は、現在知られているまたは今後開発されるあらゆるメディアまたは配信方法で、あらゆる目的で、かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、適応、変更、公開、送信、表示、アップロード、ダウンロード、および配信するための、世界的、非独占的、ロイヤリティフリーのライセンス(再許諾の権利を含む)を当社に付与するものとします。明確にするために記すと、これらの権利には、たとえば、キュレーション、変換、翻訳などが含まれます。このライセンスによって、ユーザーは、当社や他のユーザーに対し、ご自身のポストを世界中で閲覧可能とすることを承認することになります。お客様は、このライセンスに、当社が(i)お客様によって提供されたテキストやその他の情報を分析し、その他の方法で本サービスを提供、促進、改善する権利(生成型か他のタイプかを問わず、当社の機械学習や人工知能モデルへの使用やトレーニングなど)、および(ii)当社のコンテンツ利用規約に従い、サービスにまたはサービスを通じて送信されたコンテンツを他の企業、組織、または個人が利用できるようにする権利(サービスの改善、および他のメディアやサービスでのコンテンツのシンジケーション、放送、配信、リポスト、プロモーション、公開など)が含まれることに同意するものとします。

—— 『X利用規約』より引用

また、変更後のプライバシーポリシーには次のような記述がある。

当社は、Xのプロダクトおよびサービスを提供し、運営するために収集した情報を利用します。また、当社は、より関連性のあるコンテンツおよび広告をユーザーに表示したり、フォローすべき人およびトピックを提案したり、ユーザーが関連会社、第三者アプリ、サービスを発見する手助けをすることを可能にしたりするなど、ユーザーがXでより良い経験をすることができるよう当社のプロダクトおよびサービスを改善およびパーソナライズするために当社が収集した情報を利用します。当社はまた、本ポリシーで概説されている目的のため、当社が収集した情報や一般公開された情報を、機械学習または人工知能モデルのトレーニングに使用することがあります。

—— 『Xプライバシーポリシー』より引用

投稿がAIの学習に利用されるようになるという情報は正しい?

現在とくに話題になっているのは、前述の規約の「生成型か他のタイプかを問わず、当社の機械学習や人工知能モデルへの使用やトレーニングなど」という部分だ。この記述によって、Xはユーザーの投稿をAIの学習に利用できるようになるという解釈が広まっている。

この解釈は部分的には正しいが、誤解も含まれている。前述の規約を注意深く読むと、「情報を分析し、その他の方法で本サービスを提供、促進、改善する権利」の一部として、ユーザーの投稿を機械学習や人工知能モデルに利用する権利が列挙されていることが分かる。

では、以前の利用規約はどうだったのか。現在適用されている、変更前の利用規約には次のような記述がある。

ユーザーは、このライセンスには、当社が、コンテンツ利用に関する当社の利用規約に従うことを前提に、本サービスを提供、宣伝および改善させるための権利ならびに本サービスに対しまたは本サービスを介して送信されたコンテンツを他の媒体やサービスで配給、放送、配信、リポスト、プロモーションまたは公表することを目的として、その他の企業、組織または個人に提供する権利が含まれていることに同意するものとします。

つまり、現行の利用規約にもサービスを改善するためにユーザーの投稿を利用する権利が含まれていることになる。類似の記述は、2012年6月25日に施行された、Twitter(当時)として最初の日本語の利用規約(version 7)にも「Twitterが本サービスを提供、宣伝および向上させるための権利」として存在している。

したがって、XがユーザーのコンテンツをAIの学習に利用する(ことができる可能性のある)権利は、少なくとも12年以上前から存在していたことになる。この点を踏まえると、今回の利用規約の変更は、あくまでその権利を明確化したものであり、新たに追加されたものではないといえる。

では、プライバシーポリシーについてはどうだろうか。プライバシーポリシーの「機械学習または人工知能モデルのトレーニングに使用すること」があるという記述は、実は現行のプライバシーポリシー(2023年10月1日から適用)で追加されたものだ。つまり、プライバシーポリシー内の記述も今回の変更で追加されたものではない

XによるAIの学習を防ぐには?

Xには、関連会社のxAIが開発した「Grok」と呼ばれる生成AIが搭載されている。ユーザーの投稿したコンテンツは、このGrokのトレーニングに使われると考えるのが自然だろう。Grokのトレーニングについては、Xのヘルプページに詳しく記載されている。

これによると、Grokの最初のバージョンである「Grok-1」のトレーニングには、公開ポストを含むXのデータは使われていないという。ただし、XのポストをGrokの基盤モデルのトレーニングや微調整(ファインチューニング)に使うかどうかの設定方法について紹介されていることから、将来的にはXのデータがGrokのトレーニングに使われる可能性がある。

デフォルトでは、AIの学習を許可する設定になっている。自分のポストがXのAIの学習に使われるのを避けたい(オプトアウトしたい)場合は、次の記事を参照してほしい。なお、学習をオプトアプトしても、Grokが他のユーザーとやり取りする際にあなたのポストのデータを参照・引用することがある。これも拒否したい場合は、アカウントを非公開(いわゆる鍵アカ)にするか、アカウントを削除するしかない。

“インフルエンサー”による無責任な情報拡散

今回の利用規約とプライバシーポリシーの変更により、AIに自身の作品を学習される懸念から作品を削除する人まで出てきている。しかし、前述のとおり以前からユーザーの投稿をAIの学習に利用できたと思われる。また、いま作品を削除しても、AIの学習に利用されないという保証はない。

つまり、いまから作品を削除してももはや“手遅れ”だ。XによってAIの学習に使われたくない場合は、むしろ作品やアカウントは残したまま、前述の方法でオプトアウトするのがよいだろう。ただし、Xを含むSNSの投稿は、X以外の会社によってAIの学習に利用される可能性がある。これを防ぎたい場合は、作品やアカウントの削除もひとつの手段だろう。その場合は、自身が作品を最初に公開した、つまりその作品の権利者であるという強力な証拠を失うことに注意が必要だ。

利用規約とプライバシーポリシーの変更についての情報は、AI規制派の一部の“インフルエンサー”によって拡散された。これらのインフルエンサーは情報の中身を精査せず、表面的な情報の一部だけを切り取って不安を煽り、インプレッションを稼いでいる。このような無責任な情報拡散は、ユーザーに不安を与えるだけでなく、ユーザーに誤った判断をさせる可能性がある。作品を削除したことで、著作権を侵害された際に自身が権利者であることの証明が困難になったとしても、彼らは責任を取らないだろう。

ユーザーが情報を受け取る際には、その信ぴょう性を確認することが重要だ。とくに、利用規約やプライバシーポリシーの変更が話題になったら、以前のバージョンを含めて原文を注意深く確認することをおすすめする。Xに限らず、さまざまなサービスの利用規約やプライバシーの文言やその変更がたびたび話題になっている。こうした話題を取り扱った投稿を見た際には、過去の利用規約や類似の他のサービスのそれを参照して、情報の真偽を確かめることが大切だ。

利用規約の変更とAIに関連して、最近ではAdobe製品で作った作品がAIの学習に使われるといったデマが広まっていた。これも、原文を注意深く読めば噂と事実が異なるとすぐに分かる。Adobeの件については、こちらの記事を参照されたい。

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Adobe製品で作った作品がAIの学習に使われる?規約変更に関するデマに注意
Adobeの製品を使って作った作品が機械学習に利用される——そんなセンセーショナルな情報がインターネットを駆け巡った。しかし、これは事実ではない。利用規約の一部の誤って解釈したインターネットユーザーと、注意深く確認せずにそれを記事にしたメディアによって、誤った情報が急速に広まった。今回は、利用規約を注意深く読み解きながら、真相を探っていく。

まとめ

※この記事は法律的なアドバイスを目的としたものではありません。法的な問題については、弁護士や専門家に相談してください。

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生まれた時から、母国語よりも先にJavaScriptを使っていました。ネットの海のどこにもいなくてどこにでもいます。

Webフロントエンドプログラマーで、テクノロジーに関する話題を追いかけています。動画編集やプログラミングが趣味で、たまにデザインなどもやっています。主にTypeScriptを使用したWebフロントエンド開発を専門とし、便利で実用的なブラウザー拡張機能を作成しています。また、個人ブログを通じて、IT関連のニュースやハウツー、技術的なプログラミング情報を発信しています。