X(Twitter)のシャドウバンや検閲をしていないという主張はミスリードである【コラム】

X(旧Twitter)の日本語版公式アカウントは3月12日、シャドウバンやプラットフォームの方針にもとづく検閲を実施していないとする声明を発表した。しかし、同社の過去の発表を踏まえると、この声明は誤解を招くものである。Xの声明は正しいが、シャドウバンは実在するうえに、検閲も存在する。本記事では、Xの公式のいくつかの発表を分析しつつ、シャドウバンの実態とXの検閲について考察する。
「シャドウバンを実施していない」は事実であり虚偽でもある
実は、Xがシャドウバンを実施していないという声明を発表するのは、これがはじめてではない。X(当時はTwitter)は2018年、公式ブログの記事で「We do not shadow ban(シャドウバンをしません)」と明言している。今回の声明は、この主張を繰り返した形だ。
議論を進める上でシャドウバンの定義を明確にしておこう。一般的に、シャドウバンはポスト(ツイート)やアカウントが検索結果やオススメに表示されにくくなったり、まったく表示されなくなったりすることを指す。この状態では、アカウントのプロフィールを直接表示することでポストを表示できるが、ほとんどのユーザーはそこまでの手間をかけないため、結果としてポストのインプレッション数が大幅に減少する。
こうしたシャドウバンは実際に存在しており、とくにセンシティブな投稿を繰り返しているアカウントはシャドウバンの対象になりやすい。
ここで、Xの公式ブログの話に戻ろう。Xは2018年の公式ブログと今回の声明において、シャドウバンを実施していないと主張している。これは、ある意味では正しく、ある意味では間違っている。というのも、Xは前述のブログ記事でシャドウバンを「元の投稿者に知られることなく、投稿者以外の誰もそのコンテンツを発見できないように意図的に設定すること」と定義している。また、「シャドウバンをしません」という文章の直後に、次のように書かれている。「フォローしているアカウントのツイートはいつでも見ることができます(ただし、直接プロフィールに移動するなど、見つけるのに手間がかかる場合があります)」
Xの「シャドウバンを実施していない」という主張は正しいが、この主張におけるシャドウバンの定義は、一般的なそれとは異なるのだ。直接プロフィールに移動するなどの手間をかけないとポストを閲覧できない状態は、まさに一般的にシャドウバンと呼ばれているものだ。X公式の定義によるシャドウバンは確かに実施されていないが、一般的な定義でのシャドウバンの存在はXが自ら認めていることになる。
Xはシャドウバンを実施していないと主張することで、あたかもシャドウバンが存在しないかのような印象を与えているが、実際には一般的な定義でのシャドウバンは存在するのだ。
また、前述のブログ記事やヘルプページでは、コンテンツのランク付けについても述べられている。「利用者が興味を持ちそうな話題の会話(関連性や信頼度が高く、安全なコンテンツ)が上位に表示される」一方で、「攻撃的で不快な可能性がある返信を検知して表示しないシステムの開発に取り組んできました」とも書かれている。つまり、関連性や信頼度の低いコンテンツや、攻撃的で不快な可能性のある返信は、上位に表示されなかったり非表示になったりするのだ。ただし、非表示にされた返信については、「必要に応じて確認することができます」とも書かれている。
X“は”検閲をしていない。だがXに検閲は存在する
12日の声明で、Xは「プラットフォームの方針に基づき検閲を行うことはありません」と明言している。だが、「Xではシャドウバンも実施していません」という主張と同様に、これも誤解を招く表現だ。この主張では、「プラットフォームの方針に基づき」という部分が重要となる。
Xが自発的に検閲することはないのかもしれないが、Xはサービスを展開している国や地域の法律にしたがって検閲を実施している。Xのヘルプページには、「利用者の表現を尊重していますが、該当する現地法に基づいて表示制限を実施することがあります」と明記されている。Xは現地の法律や裁判所命令にもとづき、特定の国や地域でコンテンツに表示制限を課しているのだ。表示制限の対象となった場合、禁じられていない限りは対象となったユーザーに速やかに通知し、X上で表示制限されている旨を表示するという。
このように、X自身の方針にもとづいて検閲することはないとしても、現地の法律や裁判所命令にもとづく検閲は存在する。
シャドウバンは悪なのか
では、検索結果のランク付けやシャドウバンは“悪”なのだろうか。あらかじめ断っておくが、これは立場によって意見が異なると想定されるので、あくまで筆者の個人的な意見だと考えてほしい。
わたしは、検索結果のランク付けやシャドウバンは、ある程度は必要なものだと考えている。というのも、検索結果のランク付けはXが公式に述べているように、ユーザーが興味のある投稿を表示するために必要だ。また、シャドウバンはXが商業目的で運営されているプラットフォームであることを踏まえると、その必要性を理解できる。
センシティブな投稿を繰り返すアカウントがシャドウバンされやすい傾向にあるが、端的にいえばそうした投稿は“金にならない”のだ。Xは収益を広告に頼っている。広告主は通常、ブランドや製品の認知度を向上させて顧客を増やすために広告を出稿する。広告を出稿したことによってブランドイメージが下がってしまっては本末転倒なので、広告主は自社のブランドイメージを損なうようなコンテンツの近くに広告を表示したがらない。そうなると、Xとしてはセンシティブな投稿の近くに表示できる広告が少ないということになる。そうした投稿は金にならないどころか、投稿を表示するためにサーバーのコストがかかるので、Xとしてはむしろマイナスになる可能性すらある。Xは慈善事業ではないので、金にならない投稿を表示する義務はない。
また、プラットフォームや国家による規制に対応するためにも、シャドウバンは必要となる。
たとえば、Google Playのデベロッパープログラムポリシーでは、「ポルノなどの性的なコンテンツや冒とく的な表現を含むまたは宣伝するアプリ、性的満足を意図したコンテンツやサービスなどは認められません」と明記されている。ユーザー作成コンテンツを含むアプリにおける偶発的な性的コンテンツに対してはこのポリシーが緩和されるが、偶発的とみなされるためには「(1)主に性的でないコンテンツへのアクセスを提供しており、(2)性的なコンテンツを積極的に宣伝または推奨していない」という条件を満たす必要がある。もし、シャドウバンを実施せずに性的なコンテンツを積極的に表示した場合は、このポリシーに違反したとみなされGoogle Playストアからアプリが削除される可能性がある。
AppleのApp Reviewガイドラインにも、類似の内容が記載されている。また、国や地域によっては性的なコンテンツが規制されている場合もある。このように、プラットフォームや国家による規制に対応し、Xを広く利用できるように維持するためには、シャドウバンによる表示制限が必要となる。
ユーザーの目線ではシャドウバンは迷惑な存在だが、Xという商業的なプラットフォームを運営するためには、(ある程度は)必要な存在なのだ。